ある日を境に、表情が変わった。
あの子と出会ってからは少し人間らしさというものを取り戻したと言うのに。
暴君だった司を変えた牧野つくしという女性。
始めは一般庶民が道明寺というブランド欲しさに近づいていると思っていた。
道明寺を背負う人間として、彼女のような何の家柄も資産もないような子との結婚は認められない。
道明寺の為にも、うちが一番欲しい事業を持っている企業との政略結婚をしてもらいます。
それが、司が生まれながらの運命なのですから。
散々邪魔をしても別れる気配のない2人。
仕方なく、その運命の時までは司のお遊びに目を瞑ろうと思った。
離れてしまっては、気持ちも冷めるだろうと。
司がNYに来てから、牧野さんの英徳大学での授業料を払ったと知る。
そんな端した金、大したことはないのだけど少し気になった。
だから、彼女の授業成績、レポートを逐一報告させ、日本の道明寺邸で習い事をさせた。
それは司の婚約者として認めたというよりも、一企業人として、彼女を道明寺に欲しいと思ったからだ。
彼女の頭脳明晰なところは日常の努力からか。
レポートの内容も要点がはっきりとしていて、実に簡潔。
専攻も国際経済と申し分ないし、資格取得にも励んでいるようだった。
彼女の真面目さと努力を怠らない姿勢。
足りないのは語学力と教養、いずれ司関係なく踏み入れるであろう私たちの世界では皆が習得しているピアノやダンス。
バックグラウンドがない彼女の投資に、最善を尽くした。
司の表情が明らかに変わった時から、彼女は習い事に来なくなったと報告を受けた。
調査をさせると、引っ越して携帯電話も解約したとの事。
姿をくらませた事くらい容易に想像できる。
そんなにも、司との事を真剣に考えていたのかと少しだけ親心を覗かせた。
しばらくは彼女の調査を止めることにしましょう。
司との関係が終わって、大学を去ってしまってはもう用もない人。
だけど、少しだけ希望を残したかった。
「西田、牧野さんの所在だけ確認して。退学届は受け付けず、休学扱いにするようにと大学に。しばらく報告は結構よ。」
その場では返事した西田は、私の知らないところでずっと彼女の調査を続けていた。
2年もたったある日の事。
「会長、牧野様のことでお話が。」
「今さら、何ですか?」
「高野コーポレーションの啓太様とご結婚されたそうです。」
「・・・詳しく説明して」
東京の隣県の小さな町に引っ越していた彼女は、家出して就職した啓太さんと出会った。
そしていとも簡単に交際、結婚までしてしまったと。
司との結婚どころか、道明寺への獲得の話もこれでクローズ。
高野の社長から、プロジェクトの依頼を受けたばかり。
相手の御曹司夫人を獲得する気はない。
彼女がうんと言う訳がない。
全て終わってしまったという事。
昔は司の周りをうろうろしているハエくらいにしか思っていなかった牧野つくし。
今は少しの喪失感さえ湧きあがる。
いずれ顔を会わせることになるでしょう。
その時は、道明寺に振り回された彼女の人生を、詫びようかしら。
スポンサーサイト