陣痛が始まったやら、子供が生まれたやら。
2日前に出産したつくし。
「啓太も顔見てくれば?司にそっくりで可愛いよ~」
滋にそう言われ、俺は赤ん坊よりもつくしに会いたくて教えられた病院に向かった。
面会時間ギリギリに病院に着いて、産婦人科病棟の特別室へ。
ドアの前にいるSP。
俺の顔を見て、ノックした後ドアを開けてくれた。
『はーい。』
「俺、」
『・・・啓太?』
「そう。入ってもいいか?」
『いいよ~』
仕切られたカーテンの向こう。
ベッドに座ったつくしと、ベビーベッド?に寝ている赤ん坊。
『寝てるから静かにしてね。』
小さな小さな赤ん坊は、滋の言う通り本当に司そっくりで笑った。
つくしのお腹の中から俺の手を蹴ったのはこいつか。
頬をつつけば柔らかく、眉間にしわがよる。
赤ん坊から離れ、ベッド脇の椅子に座った。
「大変だった?」
『うん、ものすごく痛かったよ~。でも、産まれてきた瞬間にその痛みなんかどうでもよくなった。やっと会えたねって、感動しちゃった』
「お疲れ様でした。」
『ありがとう。・・・啓太、疲れてるの?』
「え?」
『疲れた顔してるよ。トラブル抱えるとそういう顔になる。何年経っても変わってないね』
俺の元に来ている内部告発文。
上司によるセクハラだというので、今は調査中だった。
会社の上層部しか知らない情報。
まだ道明寺にさえ報告していない。
『大丈夫、司には内緒にしといてあげる。まだ報告段階ではないんでしょ?あたし、今は会社の事にはノータッチだから、知らないふりしとくよ』
「悪いな」
デリケートな問題なだけに、ストレスになっていたのかもしれない。
自分でも気付かずに、疲れが顔に出ていたんだろう。
つくしに気づかれるとは思ってもいなかった。
『家帰って休んだ方がいいんじゃないの?』
「つくしといるとホッとするんだ。だから、少しここにいる。」
『滋さんが聞いたら怒るよ?』
「事実なんだからしょうがないだろ。じゃなきゃ結婚なんてしてないよ」
『それもそっか。』
穏やかに過ぎて行く時間。
お似合いの夫婦だって言われた事を思い出す。
知らない人から見れば、俺は夫に見えるのだろうか。
ふと、つくしの手が視界に入る。
妊娠中はむくんでいた指が、すでに俺の知っている手に戻っていた。
「手」
『手?』
手を伸ばし小指を触った。
「むくみがなくなってる」
『2日かけてやっと戻ったんだよ。』
つくしが握るように、俺の手に触れた。
『啓太、終わった事にいつまで縋るつもり?』
その言葉に顔をあげた。
『あたしたちは終わったんだよ。強制的だったかもしれない。それでも、もう新しいパートナーがいるのにこんな事はダメ。』
俺の手をそっと外した。
『あたしは元奥さん。今は司の奥さんだよ?愛情の全ては司にあるの。啓太も、滋さんだけを見て。会いに来てくれるのは嬉しいよ。でもそれは友人としてであって、それ以上は何もない。』
きっぱりと告げられた。
当たり前だ。
俺はつくしに何を求めていたんだろう。
癒し?
愛情?
窮屈に感じている結婚生活から逃れる術?
つくしには全てばれていたって事か。
「・・・俺、つくしだけが幸せになっているような気がして、嫉妬してた。」
『嫉妬?』
「俺は、正直言えば滋と結婚したくてしたわけじゃないし、結婚してからもお世話になりっぱなしで頭が上がらない。向こうは気にしなくていいって言うけど、ずっと肩身の狭い思いをしてる。そんな時につくしが帰国してきたんだ。俺らにはできなかった子供を妊娠して。
なんて言うか…もう一度、つくしに見てもらえるのを期待していたのは事実。情けないなぁ。何がしたいんだろうな、俺」
妊娠中の元妻に、少しでも愛情を注いでほしかったんだろうか。
『滋さんの顔見て考えなよ。自分にとって何が大切か、守るべきものは何か。あたしは、司とこの子が一番大切なの。何があっても守りたい。啓太も答えを出して。いつまでも後ろばっかり振り返らないで。』
「あぁ」
病室を出て、廊下の先に長身のクルクルパーマが見える。
俺の姿に気付き、立ち止まった。
「つくしの部屋の帰りか?」
「おぉ。おめでとう、司も親父か」
「サンキュ。お前らだって跡取り作んねぇとな」
「つくし見て、頑張ろうと思ったよ。お前らには負けてらんねぇから」
「啓太、全て背負い込んで、辛くなったらうちに来い。つくしはその荷物を軽くしてくれる。
俺も随分助けられた。2人きりにはさせねぇよ?でも、つくしに会いにくるくらいなら仕方ねぇから許してやるよ。あいつはいるだけでいい。お前もそうなんだろ?」
「・・・お前らは似たもの夫婦だな。」
「あぁ?俺とつくしのどこが似てるって言うんだよ」
「全部だよ」
俺を突き放してくれない所も、背中を押してくれる所も、何もかも。
「今度は滋と出産祝いでも持って行くよ。あいつ張り切ってるから、大目に見てくれよな」
「あの猿女、また暴走してんのか。」
「俺ら夫婦はつくしが好きなんだ。ただそれだけ。」
「フッ、俺が一番だけどな」
「当たり前だろ」
「じゃあな、啓太。来月の報告書、忘れんなよ。それまでに今抱えてる案件終わらせとけ」
「・・・あぁ。」
俺に背を向け、手を上げ歩いて行った司。
俺は司にとって、類みたいに目くじら立てるようなライバルでもないって事か。
つくしだけではなく、司にも勘付かれていたストレス。
家に帰って、滋が頑張って作ったご飯でも食べよう。
美味くなる気配はないけれど、俺の為に作ってくれたんだから褒めてあげよう。
今ここにある当たり前が、幸せだと気付かせてくれたから。
数か月後、滋の妊娠を報告する日が来る。
今日の更新、少し遅くなってしまってすいません。
The person~の短編も、ここで一区切りつけたいと思います。
明日からは証の短編、つかつく結婚後の3人のパパたちとの絡みを掲載します。
お付き合い頂けると嬉しいです。
もう1つ。
気がつけば5万アクセス超えてました。
日々私の妄想にお付き合いしてくれてる皆様のおかげです。
これからも時々お休みしながら長くお付き合いしていけたらいいなとは思ってますので。
今後も当サイトをよろしくどうぞ。
ランキングに参加してます。
ポチっとお願いします。
0574 Web Site Ranking
スポンサーサイト