未だにNY勤務のままのあたしは、司とは別居婚である。
相変わらず月に一度はNYに来ている司。
結婚してから、あたしの日本出張と合わせて7回しか会っていない。
大丈夫か、あたしたち。
「早く帰ってこいよ」
電話する度に言う司。
あたしだって寂しいんだよ。
会いたいし、抱きしめてほしいし、キスしてほしい。
あの体温の高い大きな手であたしに触れてほしい。
一緒に暮らせる日々を夢見て、耐えるしかないんだって思うから。
道明寺になって、あたしの環境は一変した。
取締役にされ、株の保有と個室を与えられた。
ジョージという50近いおじさんの教育係をつけられ、日々経営について勉強中。
毎日覚えることだらけで、頭がパンクしそう。
今日も、目の前に積まれた書類に目を通す作業中。
秘書の美香ちゃん(日本人)がコーヒーを持ってきてくれる。
道明寺の一族だけが飲める、最高級の豆から淹れたコーヒー。
別にあたしは安いコーヒーでもいいんだけど。
淹れてくれるから文句は言わない。
『ありがとう、美香ちゃん』
あたしが微笑むと、美香ちゃんも会釈を返してくれて部屋を出た。
嗅ぎ慣れたはずの香りに、気分が悪くなる。
不快感は時間と共に増し、コーヒーに口をつけることもできない。
突然襲ってきた吐き気に、あたしは部屋を飛び出しレストルームへと走った。
胃の中の物を吐き出すと、スッキリとして吐き気はおさまった。
体調が悪いのかな。
レストルームから出ると、秘書室へと向かう。
『美香ちゃん』
「はい、何か御用ですか?」
『今日ちょっと体調悪いから、コーヒーじゃなくて日本茶にしてくれる?』
「わかりました。大丈夫ですか?医務室行かれます?」
『そこまでじゃないから大丈夫。ごめんね、仕事中に。』
「いえ、何かあったらまた言ってください。」
あたしが部屋に戻ると、美香ちゃんがコーヒーとお茶換えてくれた。
匂いが変わると、あたしの吐き気も起きなくなった。
次の日は、美香ちゃんの機転でハーブティを出してくれた。
「体調は良くなられましたか?」
『うーん。昨日よりは大丈夫。』
「何かあったらすぐ言ってくださいね。医務室から先生呼びますから。」
『ありがとう。』
あたしより身長が大きいから見上げる形にはなるけれど、しっかりしてて、本当に頼りになる。
まだ秘書2年目の新人さんだけど、去年まで西田さんに指導されてたから仕事はできる子。
数少ない日本語で話せる、心許せる人。
なんとなく気分の悪さは残っていた。
ムカムカしてる感じがあって、食事も美味しく感じない。
体はだるいし、熱っぽくも感じる。
風邪でも引いたのかな。
長引かせるといけないので、美香ちゃんに言って医務室の先生を呼んだ。
聞かれた事に答えて、内診してもらって。
診断されたのは「妊娠してるかもしれない」だった。
『え?妊娠?』
「ここでは正確な判断はできませんが、妊娠している可能性があります。専門医に診てもらってください。今までの症状はつわりの一種だと思います。症状は人それぞれですから、つくし様はコーヒーの香りがダメなんでしょうね。私の姉は炭酸飲料しか飲めなくなってましたよ。」
ビックリしすぎて、先生の言葉を半分も聞いていなかった。
後ろで聞いていた美香ちゃんが、「すぐに検査薬の手配をしてきます」と部屋を出て行った。
渡された検査薬を持ってレストルームに向かう。
緊張する…
結果は陽性。
妊娠だなんて思ってもいなかったから驚きと、妊娠したという喜びであたしは泣いていた。
「取締役?大丈夫ですか?」
なかなか出てこないあたしを心配して、美香ちゃんが声をかけてくれる。
ドアを開けて、涙を拭いた。
『陽性だった。』
「本当ですか?良かったです!会長に報告しなきゃいけませんね!」
『あ、あたしが直接言うから。』
「そうですか?じゃあ病院にアポ取ってきます。日本と違うので、予約取るのに大変なんですよ。」
『そうなの?』
「はい。先生に聞いてきますね。すぐにアポ取れるかもしれません。」
秘書室に行ってしまった。
書類に目を通していると、美香ちゃんが入ってきた。
「すぐには無理でした。来週の水曜日、予約取れましたので。」
『ありがとう。』
来週か。
はっきりしてから司に言おうかな。
会長と総帥だけは、先に言わなきゃね。
このお話を書くにあたっていろいろ調べたんですが、
日本と違うとこが多すぎて驚きました。
検査薬で調べていないと診てくれない病院もあるとか…
実際と違うところがあるかもしれませんが、そこは許してください。
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