安定期も中頃、6か月を過ぎた頃だった。
あたしの部屋には、昔と変わらないビー玉の瞳をした類がいる。
「引越ししよう。」
『は?』
「一緒に住もうって言ったでしょ?日本勤務になったんだ。これで牧野と一緒にいられるでしょ?」
『いや、だからね、そんな事してほしくないって言ったでしょ?』
「牧野は子供の事ちゃんと考えてるの?」
『考えてるよ。考えて、悩んで、それでも産みたいって思ったんだもん。』
「もし、誰が見ても司そっくりだったらどうする?牧野の過去を調べて、道明寺の血を引いた子供がいたら誘拐の対象になる事くらいわかるでしょ?」
『わかるよ。でも・・・』
「セキュリティのちゃんとしたところに住まなきゃ、子供に何かあってからじゃ遅いんだから。道明寺の血を引いた子供を産むって、そう簡単じゃないんだよ。」
『うん・・・』
「司には知られたくないんだったら、なおさら花沢で守ってあげる。病院にも手は打ってあるから。」
『病院?何したの?』
「牧野が妊娠、出産した事は伏せる事、お礼奉公の奨学金も払ったし、産婦人科の改修も始まるよ。」
あたしは唖然として言葉が出なかった。
これだから、ボンボンの考える事はわかんないんだよ。
類に言ったのは間違いだったのかな。
「俺がいつでも行けるように特別室作ってるから。何なら泊まることもできるよ?」
『もう!勝手なことばっかり』
「じゃあ勝手ついでに、すぐに俺のマンション引っ越してきて。荷造りはうちで手配するから。」
『・・・行かなきゃダメなの?』
「子供の事を考えると、放ってはおけない。牧野の子供は、俺にとっても大切な人だよ。」
『類…』
「ね、お腹触っていい?」
『いいよ』
類は右手であたしのお腹に触ると、左手であたしの肩を自分の方に寄せた。
触ってる部分を、タイミング良く赤ちゃんが蹴とばした。
「動いた」
『本当によく動くんだよ?』
「司と牧野の子供じゃ暴れん坊は確実だね。」
『もう!』
「これからは1人で抱えなくてもいいよ。俺が司の代わりに2人を守ってあげる。結婚しなくても、俺は父親になるから」
『ありがとう、類』
あたしは妊娠して初めて泣いた。
・・・本当は1人でどうしようもなく不安だった事。
自分に働きながら子育てできるのか問いかけていた。
本当は類の側にいる事も危険だって思う。
いつ週刊誌に撮られるかもわからない状態だし。
だけど、類はそんなの気にしなくていいよって手を差し伸べてくれるから。
あたしはおずおずと手を重ねてしまうんだろう。
すべては、この子の為に。
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