今日はそんなにハードではなかったはずなのに、ちょっとだけ目眩がしていた。
ジーパンを履こうと下を向いた時、あたしは目の前が真っ白になってその場に倒れた。
目が覚めると、ちょっと固いベッドに寝かされているのに気付く。
「あ、牧野さん目が覚めた?」
『先輩、すいません、迷惑かけてしまって。』
「いいのよ。あなた貧血だって。もうすぐ点滴終わるから、終わったら帰ってもいいって。
ねぇ、1つ聞いてもいい?」
『はい、何ですか?』
「生理、ちゃんと来てる?」
『生理…?』
言われてみれば、先月も今月も来ていない。
「もしかしたら妊娠してるかもしれないって。明日、産婦人科を受診しなさいって。」
『妊娠・・・』
「心当たりはあるんでしょ?」
『いや・・・はい・・・』
「もう点滴終わるから抜くね。」
針を抜いてもらい、先輩がジーパンを渡してくれた。
「帰ろうか。」
自宅に帰っても、考えるのは妊娠してるかもしれないという自分の事。
どうしたらいいのかも分かんない。
とりあえず、明日産婦人科を受診しなければ。
「11週に入ったところですね。心拍の確認もできましたし、順調ですよ。」
先生の言葉に、あたしは鈍器で頭を殴られたような衝撃を受けた。
「ここの病棟ナースなんだもんね。婦長に話して、シフト調整してもらってね。」
あぁ、そうか。
婦長に話さなきゃ。
夜勤まで少し早い時間に婦長と話す事が出来た。
シングルマザーになることも。
「彼には言えないの?」
『はい。1人で産んで育てようと思います。』
「経済力の問題?」
『いえ、有り余るほどのお金持ちです。』
「じゃあなぜ?」
『彼には背負うものが多いんです。今は社員の生活を守るのに必死で、あたしや子供の事までは無理だと思います。負担にはなりたくないんです。』
「子供が負担になると?」
『はい。今の彼には負担でしかありません。』
「そう。あなたが決めた事なら、全力で応援します。けれど、1人で産んで育てるのは並大抵のことではないの。家族でも友人でもいい。側に頼れる人を置く事。あなたを一番理解してくれる人が良いわ。わかった?」
『はい。ありがとうございます。』
「ここでは隠す事は出来ないので、早々にみんなに報告します。子供を産んでからも、お礼奉公は頑張らなきゃだめよ?」
『頑張ります。ありがとうございます、婦長』
話をわかってくれる人で良かった。
次の日。
あたしを一番理解してくれる人。
優紀。
あと・・・
「Allo?」
『あたし。牧野。』
「どうしたの?あんたが国際電話掛けてくるなんて珍しい」
『類にね、話さなきゃいけない事が出来たの。』
「司と結婚でもするの?」
『その時はあたしより道明寺がみんなに言いふらしそうだけど。』
「司だからね。で、今日は結婚報告じゃないの?」
『違うよ。今、道明寺とは距離置いてる。まぁ、別れたみたいなもんだよ。』
「司は納得したの?」
『うん。あいつ、仕事忙しくてあたしと会ってる場合じゃないんだよ。無理されるの嫌だからさ、片付くまで距離置こうかと思って。』
「そう。牧野がそれでいいならいいけど。」
『それとね・・・類には言っておこうと思って。』
「何?」
『・・・あたし・・・妊娠したの。道明寺の・・・子供』
「俺以外誰が知ってるの?」
『優紀だけ。道明寺には言えそうにもないし・・・』
「生まれるまでどのくらい?」
『予定日までは7ヶ月くらいあるけど。』
「俺日本に帰るから待ってて。」
『え、類?』
「一緒に暮らそう、牧野。俺が、お腹の子の父親になるから。」
『ちょっと、類!何言ってんの?あたしはそんな事がしてほしくて電話したわけじゃないよ?』
「わかってるよ。牧野は誰にも頼らず産もうとしてる事くらい。でもさ、私生児がどんな思いするのか、父親のいない生活がどれだけ可哀想か考えた?子供の為にそんな環境はよくないよ。血縁がなくても、親にはなれるんだ。」
『あたし、類と結婚なんて考えられないよ?』
「結婚なんてしなくていい。側で2人を守る騎士(ナイト)にならせてほしい。ダメ?」
『類…』
正直、類の話に困惑した。
「牧野、あんた一人じゃないんだ。わかるだろ?これからは子供の生活が第一になるんだから、ここは俺の言う事聞いた方がいいと思うよ?」
『それでいいのかな・・・』
「いいんだよ。じゃ、やることあるからまたね。」
『忙しいのにごめんね。またね。』
半ば押し切られたように感じた。
そりゃあ1人じゃ不安だよ。
本当なら、道明寺に話して2人で喜びたかった。
あいつならきっと喜んでくれたはずなのに。
今のあいつの状況を考えたら言えるわけがないんだ。
お腹の中には道明寺に愛されていた証。
あたしは絶対産むよ。
道明寺家にはバレないように。
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