では、続きをどうぞ↓
目の前にあるボックスを見つめる。
あと何回、皐月からチョコレートをもらえるのだろう。
今までは俺の好みにあった甘いスイーツだった。
なのに、今年は司くん好みの甘くないブランデー入り生チョコ・・・
皐月がここまで一人の人にのめり込んでいるのに、驚きと喜びを感じた。
今まで付き合ってきた男は、それなりに好きだったとは思うがどこか冷めてもいた。
友達を優先する事もあったし、1人になる時間も確保していた。
でも司くんに対してだけは、会えない分もあってかマメに連絡をしている姿をよく見るし、会いに行く週が決まるとエステや
ら何やら気合を入れているのも知っている。
年明け、花沢に類くんと皐月を結婚させたいと言った時には笑われた。
俺は本気で、司くんに皐月を渡したくないと思ったんだ。
「司くんからも話を聞かなきゃダメだろう。イイ大人が、その時の感情任せでそんな大事なことを決めるな。でも、社内でくら
いなら公表したらいいんじゃないか?当の本人たちを焦らせるといい。」
その提案に乗った俺は、社内掲示板で皐月の婚約を発表したんだ。
皐月には言ってないが、1月末に司くんからアポが入って東京で会っている。
大河原との婚約騒動を謝罪され、話は皐月の事へ。
「皐月さんは、事故に遭うまでは牧野つくしという名前でした。僕の婚約者です。」
「・・・は?じゃあ、記憶をなくす前の皐月を知っていると言うのか?」
「はい。類も、総二郎もあきらも知っています。僕たちは英徳学園で知り合いました。学園でやりたい放題だった俺を変えた
のは彼女です。いろんな事がありましたが、交際を始め、俺が4年間NYで経営を勉強して帰ってきたら結婚する約束をし
ていました。」
司くんの目は本気だった。
嘘をついているようにも見えない。
「牧野が大学1年の時、バイト帰りに乗ったバスが事故に遭いました。そして、逢坂社長が助けてくれたんです。」
「ちょっと待ってくれ、君と付き合っていながらバイト・・・?」
「あいつは、いくら付き合っているからって生活費まで出してもらう義務はないと、生活費として渡した通帳からは一切金は
使いませんでした。元々、あいつの家は超がつくほどの貧乏です。今にも壊れそうなアパートに家族4人で住んでましたか
ら」
思い出しているのか、口角が上がっている。
「いくら探しても見つからなくて、途方に暮れていたんです。もう、ダメなんじゃないかとまで思いました。あのパーティで再
会した時、夢を見ているようで信じられなかったんです。俺たちはすぐに、皐月は牧野だと確信しました。間違えるはずは
ありません。俺が惚れた唯一の女なんですから。」
自信に充ち溢れた司くんは、女性を引きつける魅力にあふれていた。
皐月もきっと、その魅力に引きつけられた1人なんだろう。
「皐月を誰にも渡したくなかったんです。例え類であっても、記憶がなくても、自分以外の男となんて考えられません。卑怯
だとも思いましたが、母親を利用しました。逢坂社長の養女なら、家柄も何も文句言われる事はありません。」
家柄の格差、それは自分も以前まで感じた事だ。
付き合うだけで、相手にもステータスを求められる。
どこの企業か、旧家か、資産は、英才教育を受けているのか、そんなものクソくらえだと自分は思っていても、周囲が許し
てはくれない環境。
きっと司くんと皐月も、いろんな障害を乗り越えてきたんだろう。
でも、2人の純愛話を聞いたからって素直に応援はしてあげないよ?
皐月の気持ちを聞いてないからね。
「もしもこの先、道明寺に何かあった際は、逢坂社長のお力を貸していただけないでしょうか」
「うちの?」
「今回のプロジェクトの執行と共に、大河原が結婚を言いだしてくる可能性があります。それだけは絶対避けたいんです。
僕は、皐月以外の女性を妻にするつもりはありません。」
「司くんはいいのか?皐月は記憶がないんだよ。君との思い出だってあるだろう?」
「・・・仕方ないと思っています。実際には忘れたい事だってたくさんありました。お互いの為には別れた方がいいと何度も
思い、その度に彼女は真正面からぶつかってきて、やっぱり彼女を手放すのは無理だと諦めるんです。僕を幸せに出来る
のは彼女しかいません。また、彼女を幸せに出来るのは僕だけです。」
この自信はどこから来るんだか。
そろそろ皐月と話す時間を作ってもいい頃だな。
同じ家に住んでいるんだからいい加減避けるのも大変だし、そろそろ皐月不足だし。
皐月と一緒に住むようになって、あの一生懸命さが可愛くて仕方ないんだ。
この慈愛に満ちた気持ちは、皐月だから感じられたんだと思う。
親が子に抱く、無償の愛を教えてくれた皐月。
絶対に、幸せにしてあげたい。
その為にはなんだって出来るんだよ。
「何かあったら手助けするよ。皐月もそれを望むだろうしね。しかし、皐月との事は別だ。僕は養父という立場上、皐月には
絶対に幸せになってもらわなきゃいけないんだ。次、皐月を傷つけるような事があったら問答無用で類くんとの婚約話を進める。話を聞いて思ったんだが、類くんも高校時代皐月を好きだったんだろう?」
「・・・はい」
「やっぱりね。なら問題はないはずだ。」
俺が断言すると、司くんの眉間に皺が寄った。
「要は、皐月を傷つけなければいい話だ。簡単だろう?」
「はい。それと、もう1つお話が」
「後は何?」
「彼女の実の両親に、生存している事、逢坂社長の元でお世話になっている事を話してきました」
「・・・なんて?」
司くんとの結婚云々よりも、そっちの方が身に緊張が走る。
「生きていた事に涙を流して喜んでいました。養子縁組をした事にショックは受けていましたが、衣食住に困ることなく暮ら
している事に、逢坂社長には感謝しかないと申していました。彼女が記憶を戻した際には、会わせてほしいと」
「今は会わなくていいのか・・・?」
「会っても自分たちの事がわからないんじゃ、混乱させるだけで可哀想だと。もし彼女の方から会いたいと言うのであれば
、それには対応すると言ってました。」
「わかった。ずっと、探さなくてはと思っていたんだ。今となっては、皐月を手放したくはなくてね。本当は嫁にも出したくない
くらいなんだよ。」
「それは困ります。」
「・・・だろうね。嫁には出すよ。ずっと独身じゃ可哀想だからね。」
「お願いします。・・・今日はお時間取っていただいてありがとうございました。」
「いいや。司くんの話を聞けて良かったよ。こちらこそありがとう。御両親には、僕の方からも連絡するよ。勝手な事をしてし
まった謝罪もしなければいけないし」
「では、これを」
手帳に皐月の両親の名前、住所、電話番号を書いて渡してくれた。
その紙を自分の手帳に挟み、立ち上がった。
「近々、皐月は君に会いに行くかもしれない。今まで男の家に泊まった事がなかった皐月が、司くんとだけは泊まりたがる
。困ったもんだよ」
「僕も帰したくないんです。本当は、ずっと一緒にいたいくらいです。」
「それはダメ。父親として許すわけにはいかないよ」
にっこりと笑って、司くんの執務室を出た。
「いつまで皐月の父親でいられるだろう・・・」
出来ればずっと、と思う反面、記憶が戻らない皐月を可哀想にも思う。
矛盾した今の気持ちを、どうしていいものか。
皐月がいない夜は1人になりたくなくて、贔屓にしているクラブのママに電話をかけた。
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