やっと空いた3時間。
滋に取ってもらった部屋。
チェックインして、先にシャワーを浴びて待っていた。
間もなくノックする音がする。
ドアを開けると、愛しくてたまらない女が立っていた。
腕を引き、思いきり抱き締める。
「会いたかった。」
『あたしも』
ドアが閉まるとお互いの唇を貪り合う。
すると、牧野から声が漏れ始める。
唇を離し、抱き上げてベッドルームへと向かった。
牧野の甘い香りを胸いっぱい吸い込んで、たくさんのキスを降らせて、透き通るような白い肌に隈無く触れて。
次がいつかわからないから。
俺の中を牧野で溢れさせたかった。
程よい疲れの中、俺の胸にピタリと牧野が寄り添う。
『司…』
「なんだ?」
『お姉さん元気?』
「姉ちゃんか?あぁ、元気だよ。…ちょっと待ってろ」
リビングに置きっぱなしの携帯を取りに行った。
戻ると寂しそうな顔をしている牧野。
「ちっと離れたくらいでそんな顔すんな」
『だって…』
「これ、見てみろよ」
数日前に届いたメールを牧野に見せる。
『え?嘘?お姉さんが?』
「先週産まれたんだ。結婚して何年も経つからな。うちのババアでさえ喜んでるよ。」
『そっか、お姉さんママになったんだ。可愛いね。』
「俺も叔父さんになっちまったな。」
『何年かしたら司おじさまって呼ばれるよ?』
「可愛い姪っ子だからしゃあないな。そのうち子供連れて帰国するだろうから、会いに来いよ。姉ちゃんも喜ぶ。」
『あたしが行ってもいいの?』
「お前は姉ちゃんが唯一妹にしたい奴だ。大丈夫だよ」
『うん、行く!あたし子供好きなの。早く会いたいなぁ』
俺の子供ならいつでも仕込んでやるのに。
それができないこの関係をもどかしく感じる。
いつかは啓太の子供を産むだろう牧野を、俺は現実として受け入れる事ができるのだろうか。
始まったばかりのこの関係に、焦りと不安を覚えた。
「こんにちは、つくしちゃん」
『こんにちは、お義兄さん』
啓太の兄、広太。
啓太と変わらないくらいの長身に、涼しげな一重の瞳と短く整えられた黒髪が印象的な人。
突然現れた弟の嫁のあたしにも優しい。
お義兄さんはもうすぐ、お見合いするらしい。
相手は笹岡グループの令嬢、瞳。
同業種、そして高野がこれから手を出したいジャンルの子会社を持っている笹岡とは、高野にとって好都合の縁談だった。
高野は25歳までに自分で相手を見つけてこないと、お見合いさせられる。
お義父さんも啓太も25歳までに結婚したけど、お義兄さんはできなかったみたい。
「今日は啓太は?」
『少しだけ会社に寄ってから、ここに来る予定です。』
「そっか、つくしちゃんはこれから母さんとエステ?」
『はい。』
「つくしちゃんはエステなんてしなくても十分可愛いのに。」
『お義兄さんは冗談がお上手ですね』
「僕は本当の事しか言わないよ。」
こんな他愛のない話ができる、心許せる人。
家族みんなで参加するパーティーの為に高野の邸に来たあたし。
一人でも来れるくらい、家族になれてるって思ってる。
少し打算的だけど、お義母さんを、家族を愛しているお義父さん。
家族を第一に考え、強く芯のあるお義母さん。
後継者として高野に全てを注いでいるお義兄さん。
道明寺を見てきたから、お義兄さんはプレッシャーとかに押し潰されそうになることはないのかと心配になる。
余計なお世話だろうけど。
「つくし奥様、エステの準備が整いました。」
『はい、今行きます。お義兄さん、また後で』
「行ってらっしゃい」
待機していたリビングから、エステをする部屋へと向かった。
そしてあたしは、お義兄さんの事何にも知らなかったんだって思い知らされることになる。
月に1~2回の道明寺との密会。
背徳感、罪悪感に苛まれ、心から愛した男と過ごす幸福感に満たされる。
啓太の事も好きだけど、道明寺は違う。
心の奥深くで繋がってるような、そんな気持ち。
あたしたちは運命共同体だって昔言ったね。
ダメになるのも、お互いの手を取り合うのも、運命なんだろう。
今はただ、この秘密の関係を守り抜くだけなんだ。
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