高そうな紙袋。
「店員に任せたから、足りないものがあったら言って」
『ありがとうございます』
「調子はどう?って変わらないか」
『・・・あの!あたし、』
「そんな急いで返事しなくていいよ。皐月の一生を左右するかもしれない事なんだ。」
『今日、ずっと考えていたんです。』
あたしの荷物を棚にしまっていた斉藤さんも、手を休め目線だけをこちらに向けた。
『でも、考えても考えてもわからなくて。病院を出ても、どこに帰ったらいいのかもわからない。友達や家族の名前もわ
からない。何も覚えていない自分が怖いんです。』
少しだけ震えだす左手。
逢坂さんが、優しく握ってくれた。
あたしは、生きていく為の一筋の光に縋りたい。
『あたしを、娘にしてください』
「後悔しないかい?」
『わかりません。もし記憶が戻れば、その時は・・・?』
「その時考えればいい。その時の皐月の状況を見て、決めればいいんだよ」
『ありがとう。・・・お父さん』
「皐月・・・」
優しくあたしの頭を撫でてくれる。
くすぐったいような、懐かしいような、心が温かくなる。
「もう少し怪我が良くなったら神戸に帰ろう。皐月の部屋を用意して、服や必要な物も買わなければ。」
『気が早いですよ』
「もう娘になるって決めたんだ、敬語もなしだよ。」
『はい、あ・・・うん』
ちょっとだけ、恋人同士のような。
付き合いだしたばかりのカップルのような気恥ずかしさはあるけれど。
寡黙そうに見えて、よくしゃべる姿も。
年齢を聞いて驚くくらい、若く見える容姿も。
斉藤さんと話すと見せる経営者の顔も。
恋愛感情ではないけど。
人として、尊敬できて好きだと思える。
ずっと握ったままの左手。
記憶を失くしてから初めて、心が温かいと感じた。
怪我がまだ治っていないけど。
というか、骨折って1ヶ月以上かかるし。
ヘリで神戸まで帰る事になった。
最初に聞いた時は『・・・えぇ?』って思ったけど。
お父さんも東京滞在の限度があって、先に帰ったらって言っても聞いてくれなくて。
「皐月と一緒に帰る」
こればっかりで斉藤さんを困らせた。
「向こうの病院には連絡してあるから、真っ直ぐ行く事。これ、渡してくれ。」
お父さんは大きな封筒を山木先生から受け取った。
それをすぐに斉藤さんに渡し、あたしの元へ。
「皐月ちゃん、こいつの面倒大変だと思うけど、頑張ってね」
「おい!余計な事言うな」
『大丈夫です(笑)』
お父さんも山木先生も、年齢なんて聞かなければわからないくらいカッコいい2人。
ふざけ合う姿も、画になっている。
車いすに乗っているあたしを抱きあげ、一緒にヘリに乗り込んだ。
「じゃあな、山木。また連絡する」
「おう。娘が出来たんだ。女遊びは程々にな。」
「・・・うるさい」
動き始めたヘリ。
隣に乗るお父さんは、あたしの手を握り優しく微笑みかけてくれた。
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