腕も、脚も、頭も、体中が。
うっすら開けた目に映し出される白い天井。
どこ・・・?
微かな消毒液の匂いがするから、病院かな。
なんで病院にいるんだろう、あたし。
体中が痛い理由も、わからない。
「ここ病院ですよ?わかりますか?」
『あ、はい・・・』
「昨日、大きな事故に巻き込まれたみたいですね。本当に、命があって良かった。」
事故…?
あたしが?
「あなたの手荷物が何もないんです。お名前、生年月日は言えますか?」
あたしの名前、生年月日…
『名前は・・・あれ?あたしの名前・・・』
「自分がいくつかわかりますか?高校生か、大学生か、もしくは社会人か」
小さく首を振った。
「今先生呼んできますね。待っててください」
動かせる範囲で、頭を動かした。
左右、どっちを見てもあたしと同じようにたくさんの点滴の管、心電図、中には人工呼吸器が繋がっている。
左足も、右腕も、ギプスで固定されているのを感じた。
骨折するくらい大きな事故だったんだ。
なんで、何も覚えていないんだろう。
怖いよ。
自分が自分じゃないみたいで、気持ち悪い。
程なくして先生が来て、ベッドごと検査に連れていかれて、傍らには知らない男の人もいて。
「記憶、障害・・・」
「脳に異常はなかった。たぶん、頭を打ったせいかもしれないね。」
『どのくらいで戻りますか?』
「こればっかりは何とも言えないんだ。明日戻る人もいれば、一生戻らない人もいる。医者として、ここまでしか言えな
い。」
『そう、ですか・・・』
「あぁ、言ってなかったね。昨日君を助けてくれた人だよ。」
「初めまして。逢坂久雄と申します。」
『助けていただいてありがとうございました。お礼が遅くなってすいません』
「いいんだよ、そんなこと。受けられるだけの検査を受けて、早く治そうね」
『はい。あ、でも治療費・・・』
「それは気にしなくていいよ。また明日来るから。君に、大事な話があるんだよ」
『大事な話・・・?』
「あぁ。明日には一般病棟に移るだろうから、そこでね。」
マスク越しじゃはっきりと顔もわからない。
だけど、あたしを助けてくれた恩人だから。
少しは話を聞かなければいけないのかなって、思わされてしまった。
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