「はい。」
「それと、ショッピングモール建設に向けて高野とうちの共同プロジェクトをあなたに任せます。必ず成果を残すように。」
「言われなくてもわかっています。」
ババアの執務室を出て、自分の部屋に入るとふーっと1つため息をついた。
結局は5年かかった。
牧野は迎えに行かなかった俺を、どう思っているんだろう。
情けない奴だと思うだろうか。
帰国後、すぐにうちの邸で開かれた道明寺創業パーティ。
俺の日本支社長就任祝いも兼ねている。
くだらない。
総二郎やあきら、類たちと飲んでる方がましだ。
俺に顔を売りたいやつらに囲まれて、反吐が出そうになる。
「司!」
少し離れた所から聞こえる俺を呼ぶ声。
俺とそんなに変わらない身長のあいつは、見つけやすかった。
「友人がいたんで、失礼します。」
人混みをかき分けて進んでいく。
誰かをエスコートしているようにも見える。
「啓太、久しぶりだ・・・」
その後は声にならなかった。
俺が間違えるはずもない。
顔を見なくてもわかる。
漆黒の髪に色白の肌、華奢な体つきは変わってない。
啓太「紹介するよ、妻のつくし」
妻だと?
啓太と結婚したって言うのか・・・?
『お久しぶりです、道明寺さん』
この一言は、俺に冷静さを取り戻させた。
もう俺を「道明寺」と呼び捨てにする気がないらしい。
感情のまま突っ走ってたガキじゃない。
ここは大人の対応を見せてやろうじゃないか。
司「久しぶりだな、元気にしてたか?」
『はい、おかげさまで』
ガキの頃から知ってる啓太。
パーティで会えば、何かしら言葉を交わす。
高野は不動産関係では日本一の企業。
全幅の信頼を置いていた。
啓太は高校の時から仕事をしていた。
経営者としてセンスがあるらしく、うちのババアが認めるほど出来るやつ。
NYで啓太が親父さんとケンカして出ていったっきり音信不通だと聞いていた。
その啓太が俺の目の前で、牧野をエスコートしている。
左手の薬指にはお揃いのリング。
嫉妬にも似た感情が俺の心に渦巻いた。
冗談を交えた会話も、仕事漬けだった俺には心地いい。
そして、例え人の嫁だろうと牧野がいるこの空間も。
タイミング良く滋が現れ、牧野を連れ出すと俺も後ろをついて行った。
桜「先輩…」
牧野に桜子が抱きついた。
泣くのを必死に我慢している牧野。
それさえも可愛いと思える俺は、まだ牧野との事を過去にできていないようだ。
類「元気そうで良かったよ、牧野」
類の牧野にしか見せない笑顔。
あ「まさか啓太と結婚してたとはな。」
あきらの牧野にしか見せない笑顔。
総「牧野は金持ちにすげぇ縁があるな」
総二郎の牧野にしか見せない笑顔。
F4にとってかけがえのない存在が戻って来た。
『みんな、黙っていなくなってごめんなさい。探さないでいてくれてありがとう』
携帯を変えたって、引越したって、探そうと思えばいくらでも探せる。
でも、俺たちは誰もそんな事をしなかった。
牧野の為に距離を置くことも必要だと思ったから。
牧野が心配で、心から笑えない日もあっただろう。
だけどそんなの牧野の心の傷に比べたら大したことはない。
みんな、わかっていたんだ。
涙をこらえる事が出来なくて、結局泣きだした牧野。
桜「先輩、せっかくのお化粧取れちゃいますよ?」
滋「そうよ、啓太のことでキレイにしてもらったんでしょ?」
そう言いながら滋も桜子も泣いていた。
後ろから牧野を見ていた俺は、その光景に口角をあげた。
それからの牧野は俺に話しかけるでもなく、目さえも合わせない。
手を伸ばせばこの腕に閉じ込める事が出来るのに。
牧野が一番気にする世間体ってやつに阻まれている。
俺はよくても牧野は人妻。
しかも高野の嫁だ。
週刊誌のネタになるのだけは避けたい。
からかわれ、相変わらずの減らず口での会話を聞いているだけで、日々積もるイライラをいとも簡単に拭い去る。
やっぱり俺の隣には牧野が必要なのかもしれない。
偶然の再会は、俺の人間らしさを取り戻させた。
スポンサーサイト